食料生産革命の罠 その1


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 人類が農耕・牧畜を始めた経緯はおおむね次のように語られます。約1万年ほど前、氷河期が終わると地球の気候は温暖化し、人類は新しい環境への適応を模索した。

 そんななか、紀元前9500~8500年頃トルコやイランなど西アジアで、世界で初めて小麦の栽培と山羊の飼育が始まった。

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 人類は自然環境に働きかける術を覚え、獲得経済から生産経済の段階へと移行した。人口が増え文明発展の基礎が築かれた。

 かつて農耕・牧畜は中東地域から各地へ順次伝播したと思われていましたが、今では世界のあちこちで独立して食料生産が始まったと考えられているようです。

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 ところで、『サピエンス全史』(ノア・ハラリ著)はこの農業革命について異なる視点を提供しています。

 農耕の始まりとは人類が小麦や稲を栽培化したのではなく、小麦や稲が人類を「家畜化」したのだと言うのです。

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 なぜなら小麦はもともと中東の狭い地域に生える野生の草に過ぎなかったが、数千年のうちに世界中で生育されるようになった。これこそ小麦が人類を使役した結果だというわけです。

 小麦にそういう意志があったかどうかはともかく、生物にはできるだけ多くの子孫を残そうとする本能がありますから、なるほど小麦は見事に自分の目的を成し遂げたことになるでしょう。

 ただし、人間の側も小麦や稲の助けを借りて繁栄しているのですから、それならば両者はウィン・ウィンの関係にあるというべきはないのでしょうか。

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 しかし、この本の著者は必ずしもそうではないと語ります。

 たしかに狩猟・採集時代は多くても100人程度の集団を形成するのが精一杯だった。それが農耕社会になってからは1000人規模の村が登場するようになった。

 けれどもその村のだれもが満ち足りた生活を営んでいたと考えるならそれは間違いだ。農耕民は狩猟採集民より勤勉に働いたにもかかわらず、生活水準はより悪化していたからだと述べています。

(次の記事へ続きます)
あさのは塾便り::本・映画など | 08:13 AM | comments (x) | trackback (x)

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