百人一首を生きる


あさのは塾ブログ

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 新年を迎えました。学校では、百人一首が課題として出される季節でもあります。

 暗誦の宿題が出て、なかなか覚えられないというぼやきも聞きます。一夜漬けで詰め込む方もいるでしょうが、呪文みたいに丸暗記するのはつらいことですね。

 教師らしいアドバイスをするなら、いきなり覚えようとはせず、一定期間、何度も繰り返し音読するのがよいと思います。

 若い記憶力があれば、それだけで自然に覚えることができます。

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 さて、塾としては、せっかくなので歌の意味の方も理解しましょう、と啓蒙したいところです。

 とはいえ、中学生だった当時を思い出してみても、これまた何だかわかりにくかったですね。現代語訳を読めば一応の意味はわかるけれど、もう一つピンと来ないし、腑に落ちないという感じでした。

 しかし、それでは古くさいものは時間の無駄なのかと言えば、そうとばかりも言えません。なぜって、百人一首には、中学生の及びもつかない人生の真実が含まれているからです。

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寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづこも同じ 秋の夕暮 (良暹(りょうぜん)法師)

 当時の自分が共感できる気がしたのは、たとえばこんな歌です。「宿」は宿屋でなく、自分の住まいをさすのだそうですが、そこを勘違いしたとしても、内容はストレートで言いたいことはわかります。

 おそらく人生の漠然とした不安とか、ことさら孤独を気取ってみるとか、青春の感傷に通じるものがあると思ったのでしょう。

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久方の 光のどけき 春の日に しづこころなく 花の散るらむ (紀友則)

 日の光がのどかに差している春の日に、どうして桜の花は落ち着いた心もなく散ってしまうのか。

 学校でも習う歌ですが、こういう歌になると、もう難しく思えました。穏やかな春の一日には違いありませんが、だからどうなんだ、と。

 でも今は、それを詠まずにいられない心持ちがわかる気がします。絶えず舞い落ちる桜の花びらに、留まらず過ぎゆく時間、人生の来し方行く末が透けて見えるようです。

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 男女の恋の歌に至っては、恋愛に縁のない中学生には、もうお手上げ状態でした。

「あなたが来るのを待ち望んで、夜更けまで月を眺め続けていた」
「逢瀬を重ねるほど、さらに会いたい気持ちが募る」
「幸せな一夜を過ごしたのに、朝になると恋が続くのか不安になる」

「君に会って、初めて長く生きたいと願うようになった」
「あの世へ旅立つ前に、せめてもう一度逢いたい」
「好きになってはいけない人を好きになった。いっそ命を絶ってしまおうか」

 相思相愛の順当なものだけでなく、深刻でヘビーな状況の歌もあります。実際に恋をして、いくらか痛い目にあわないことには、これらの歌の世界に入り込むことはかなわないでしょう。

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 百人一首の歌は、人生の折々にふと心に浮ぶものです。そして、あるとき突然真に迫って、わかる言葉となって語りかけてくるのです。

 年齢を積み重ねるにつれ、気持ちの通じる歌は増えていきます。意味がわからないなりに触れておくことは、将来の自分への贈り物を準備しているといえるでしょう。
あさのは塾便り::本・映画など | 02:37 AM | comments (x) | trackback (x)

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